臨床性能試験

東レAPOA2-iTQの臨床性能試験1), 2)

試験概要

目的

本品について膵癌の診断の補助としての有用性及び診断性能を確認する。

方法

本品にて膵癌患者、類縁疾患患者(慢性膵炎、IPMN※)、健常人の血漿中APOA2アイソフォーム濃度を測定することとした。また、膵癌患者、健常人の血漿中CA19-9濃度を測定することとした。

  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍
症例数
(解析時)
  • 膵癌患者 106例
  • 類縁疾患患者 40例(慢性膵炎:10例、IPMN:30例)
  • 健常人(1)106例(ROC-AUC評価用)
  • 健常人(2)400例(特異度評価用)
主な除外基準
  • 膵癌患者:他の悪性腫瘍の既往・合併が否定できない患者
  • 類縁疾患患者:悪性腫瘍の既往・合併が否定できない患者
  • 健常人(1):悪性腫瘍の既往・合併が否定できない者、膵疾患の合併が明らかである者
  • 健常人(2):悪性腫瘍又は膵疾患の既往・合併が否定できない者
判定方法
  1. APOA2アイソフォーム濃度:検体中のAPOA2-AT濃度とAPOA2-TQ濃度の相乗平均値(以下、APOA2-i Index)がカットオフ値(59.5µg/mL)未満である場合、陽性と判定する。なお、APOA2-AT濃度又はAPOA2-TQ濃度が測定範囲下限値(それぞれ、3.25µg/mL、5.75µg/mL)未満の場合は、0µg/mLとしてAPOA2-i Indexを算出する。
    • 健常人血漿検体2,000例を対象としたカットオフ設定試験において、APOA2-i Indexの分布から、陰性(カットオフ値以上を陰性とする)の割合が95%となる点として算出された値
  2. CA19-9濃度:37.0U/mLを超える場合、陽性と判定する。
評価項目

主要評価項目

  • 膵癌患者及び健常人(1)におけるROC曲線下面積(ROC-AUC)

<達成基準>(本品のROC-AUCの点推定値)ー(CA19-9のROC-AUCの点推定値)> -0.05

重要な副次評価項目

  • 健常人(1)、(2)それぞれにおける特異度

<評価目標>健常人(2)における本品の特異度の評価目標は、点推定値として95%以上とする。

  • 膵癌患者における感度(陽性率)
  • 膵癌患者のうちステージⅠ、Ⅱそれぞれの患者における感度(陽性率)
  • 膵癌患者において、CA19-9陰性判定となった患者における本品の陽性率
  • 本品又はCA19-9での陽性率

副次評価項目

陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)、類縁疾患患者(慢性膵炎、IPMN)における特異度、陽性率

解析計画
  • 区間推定は信頼係数0.95の両側信頼区間を求める。
  • 「膵癌患者における感度(陽性率)」、「膵癌患者においてCA19-9陰性判定となった患者における本品の陽性率」の評価において、サブグループ解析として以下の分類別に基本統計量を算出する。
  • ステージ(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)
  • ステージ(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)ごとの腫瘍最大径(cm)(≦2.0、>2.0かつ≦4.0、>4.0)

本品のROC-AUCが、CA19-9のROC-AUCを0.029上回り、主要評価項目を達成しました。

●膵癌患者及び健常人(1)におけるROC曲線下面積(ROC-AUC)【主要評価項目】(図1)
<達成基準>(本品のROC-AUCの点推定値)ー(CA19-9のROC-AUCの点推定値)>-0.05

図1 ROC曲線下面積の点推定値

APOA2-i Index(APOA2-AT濃度とAPOA2-TQ濃度の相乗平均値)の算出において、APOA2-AT濃度又はAPOA2-TQ濃度が測定範囲下限値(APOA2-AT:3.25µg/mL、APOA2-TQ:5.75µg/mL)未満の場合は0µg/mLとしました。CA19-9濃度が1.0U/mL以下の場合は0U/mL、10000U/mL以上の場合は10000U/mLとしました。

本品のROC-AUCの点推定値は0.879[0.832, 0.925](95%信頼区間、以下同様)であり、CA19-9のROC-AUCの点推定値は、0.849[0.793, 0.905]でした。本品とCA19-9の差0.029[-0.041, 0.100]は主要評価項目の達成基準>-0.05を満たしました。

健常人(2)における特異度の点推定値は95.8%であり、評価目標を達成しました。

●健常人(1)、(2)それぞれにおける特異度【重要な副次評価項目】(表1)
<評価目標>健常人(2)における本品の特異度の評価目標は、点推定値として95%以上

表1 健常人(1)、(2)それぞれにおける特異度

本試験で用いた本品の陽性判定基準(APOA2-i Indexのカットオフ値59.5µg/mL)は、カットオフ設定試験において特異度が95%となる値であり、本試験にて評価目標を達成したことから、特異度の再現性が確認されました。

CA19-9陰性判定となった膵癌患者の本品における陽性率は59.4%となりました。

●膵癌患者全体における本品の感度(陽性率)、及びCA19-9陰性判定となった膵癌患者における本品の陽性率【重要な副次評価項目】

表2 膵癌のステージ別の陽性率(主解析及びサブグループ解析)

§:本品、CA19-9の一方もしくは両方が陽性判定となった場合。
(注)本品での陽性判定基準はAPOA2-i Indexが59.5µg/mL未満、CA19-9の陽性判定基準は37.0U/mLを超える場合としました。

表3 膵癌のステージ別・腫瘍径別の陽性率(サブグループ解析)

  • 膵癌患者における本品の陽性率は、63.2%[53.7, 71.8]でした。また、膵癌ステージ別のサブグループ解析では、本品の陽性率は、ステージⅠでは47.4%[27.3,68.3]でした(表2)。
  • CA19-9で陰性判定となった膵癌患者における本品の陽性率は、59.4%[42.3, 74.5]でした。さらにステージ別のサブグループ解析では、ステージⅠでは41.7%[19.3, 68.0]、ステージⅡでは50.0%[15.0, 85.0]、ステージⅢでは60.0%[23.1, 88.2]、ステージⅣでは81.8%[52.3, 94.9]でした(表2)。
  • 本品又はCA19-9の一方もしくは両方が陽性判定となった場合のステージⅠ膵癌における陽性率は63.2%[41.0, 80.9]、ステージⅡでは81.8%[52.3, 94.9]、ステージⅢでは90.9%[72.2, 97.5]、ステージⅣでは96.3%[87.5, 99.0]でした(表2)。
  • 膵癌患者の膵癌ステージ及び腫瘍径別のサブグループ解析では、腫瘍最大径が2cm以下のステージⅠ膵癌における陽性率は、本品が44.4%[18.9, 73.3]、CA19-9が33.3%[12.1, 64.6]でした(表3)。

〈膵癌ステージ分類〉

0期:上皮内癌
Brierley JD, et al 編. UICC・TNM悪性腫瘍の分類 第8版.UICC日本委員会 訳.東京.金原出版.2017. P.93-95. より作成

陽性的中率、陰性的中率、類縁疾患患者における特異度及び陽性率を評価しました。

●陽性的中率(PPV)及び陰性的中率(NPV)【副次評価項目】

表4 PPV/NPVの一覧

PPV=positive predictive value
NPV=negative predictive value
本品のPPV及びNPVは膵癌患者に対する感度63.2%及び健常人(1)に対する特異度95.3%から算出した。CA19-9 のPPV及びNPVは膵癌患者に対する感度69.8%及び健常人(1)に対する特異度95.3%から算出した。
PPV=
感度×有病率/(感度×有病率+ (1-特異度)×(1-有病率))
NPV=
特異度×(1-有病率)/((1-感度)×有病率+特異度×(1-有病率))

膵癌患者における感度、健常人(1) に対する特異度に、 膵癌の有病率を0.1~20%としたときの本品及びCA19-9のPPV NPVを算出しました。結果を表4に示します。

●類縁疾患患者(慢性膵炎、IPMN)における特異度及び陽性率【副次評価項目】

表5 類縁疾患における特異度

図2 類縁疾患における陽性率

本品での陽性判定基準は、APOA2-i Indexが59.5µg/mL未満としました。

本品の類縁疾患患者における特異度は、慢性膵炎患者では60.0%[31.3, 83.2](6/10)、IPMN患者では83.3%[66.4, 92.7](25/30)であり(表5)、それぞれの陽性率は40.0%、16.7%となりました(図2)。健常人及び膵癌患者の陽性率は、4.7%及び63.2%でした(図2)。

参考情報 図3 他消化器癌における陽性率3)

本品での陽性判定基準は、APOA2-i Indexが59.5µg/mL未満としました。

胃癌患者10例、食道癌患者30例、大腸癌患者30例、肝臓癌患者10例の血漿検体のAPOA2-i Indexを算出しました。消化器癌における本品の陽性率は、胃癌・肝臓癌では20.0%、食道癌・大腸癌では30.0%でした(図3)。

主要文献

  1. 承認時評価資料「臨床性能試験報告書(APOA2アイソフォーム検査キットの臨床性能試験)」
  2. Kashiro A, Kobayashi M, Oh T, Miyamoto M, Atsumi J, Nagashima K, et al. Clinical development of a blood biomarker using apolipoprotein-A2 isoforms for early detection of pancreatic cancer. J Gastroenterol. 2024.
    https://doi.org/10.1007/s00535-023-02072-w
    本研究は東レ株式会社の資金により行われた。著者に東レ株式会社の社員5名が含まれる。
  3. 申請時提出資料「膵癌以外の癌検体に対する検出特性に関する資料」